しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

浅倉卓弥「四日間の奇蹟」(宝島社文庫)

…というわけで、さっそく読んでみました。

四日間の奇蹟 (宝島社文庫)

四日間の奇蹟 (宝島社文庫)

セカチュー」や「今あい」系の作品だと思い込んでひたすら敬遠してたのに、せいいちさん(id:seiitiさん)に超おすすめされて、だまされたと思って読んでしまった本書。よくある話と言えばそれまでですが、読んでいるあいだずっと「死」というものについて真剣に考えさせられた、なかなかいい作品でした。「死んだら自分はどうなるんだろう?」とか「いずれ死んで何も残らないとしたら自分はどうなるんだろう?」とか。自分の死をリアルに想像して心底恐怖したのも久しぶりでしたね。
 物語は、事件に巻き込まれピアニストとしての将来を絶たれた若きピアニスト如月啓輔が、事件に居合わせ天涯孤独の身となった脳に障害を持つ少女・千織とともに信じられないような「奇跡」に出会い、傷つき頑なに閉ざした心を解きほぐしていく「魂の再生のファンタジー」。私としては、脳に障害を持ち、幼い子ども並の知能しか持たない千織が、山奥の脳化学研究所センターで患者のために身を粉にして働く真理子と出会うことによって、少しずつ少しずつ変わっていく…といった「現実に起こりうる奇跡を描いた普通の小説」だと思って読んでいたので、中盤以降の展開には少々(いや、かなり)鼻白み、一気にテンションが下がってしまったんですが(「え〜、この作品って「そっち系のお話」だったの〜!?」ってな感じ)、物語に繰り返し込められた「生と死の意味を問い直す数多くのメッセージ」にしだいに心を動かされ、いつしか真剣に様々なことに想いを馳せながら、気がつけば引き込まれるように読み終えていました。
 もちろん、当然のことながら不満もあるわけで…。前半は如月と千織を中心に進む物語なのに、中盤からは真理子に訪れた「奇跡」と彼女の魂の再生の物語に話の焦点が完全にすり替わってしまい、まあそれがラストにつながっていくといえばそうなんだけど、なんか「千織の話はどうなったの〜!」と言いたくなる構成の難はマイナスポイントだと思います。でも、新人の第1作と考えるならば、ここまでぐいぐいと読ませ、読む者に様々な想いを抱かせる筆力は大したもの。評価はさすがに★5つまではいかないけど「読んでよかったな」と思える作品でした。(評価:★★★★)


PS 今度6月に公開される映画で、真理子を石田ゆり子がするのはバッチリだと思うけど、千織は一体誰がするんだろ? まあ、それはさておき、さっそくおまけでもらった「四日間の奇蹟」のCDを聴いてみようっと。