しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

「石のハート」レナーテ・ドレスタイン

石のハート 新潮クレストブックス

石のハート 新潮クレストブックス

★★★★☆

たった今、読み終えました。
こんなに重く、心にずずーんと響く物語だったとは…。
一家心中という悲劇を乗り越え生き残った12歳のエレンの、魂の喪失と再生の物語。

やさしい父母と子どもたちの幸せな家族。その幸せな家庭が、末の妹の誕生とともにじわじわと崩壊していく。心のバランスを徐々に失い、狂気にかられていく母。薄氷を踏むかのような恐怖と絶望の中、母親の顔色を窺いながらなんとか気持ちを平静に保とうとするエレンの痛ましさ…。

物語は、妹が生まれてから惨劇に到るまで、事件のあと、そして30年後再び悲劇の起きた家にエレンが戻ってきた現在の、3つのパートがモザイクのように絡まりあいながら進んでいく。一家心中という事実は冒頭で提示されるが事件そのものの具体的な様子はその断片が小出しにしか語られないため、一体何が起こったのかという興味から最後までぐいぐいと引き込まれるように読んだ。この辺の構成は本当にうまい。

なぜ一家心中という悲劇が起こったのか、その過程と真相はあまりに残酷で悲痛なものであり、幼い子どもたちの心情に想いを寄せたとき(いや、ついつい感情移入して読んでしまうので…)、読んでいて何度も息苦しさを感じたほど。だからこそ、痛ましく過酷な真実の中に灯された一条の光がエレンの心を癒すさまには(ああ、ラスト2行の素晴らしさよ!)心底ほっとした。この物語を単なる救いのない物語ではなく、ささやかとはいえ希望の物語として終えてくれた作者には感謝したい。

まあ、癖のある物語なので誰にでもお勧めというわけではありませんが、私にとっては大ヒットでした。新潮クレスト・ブックス驚異の打率10割は継続中。
それにしても、こんな素晴らしい作品が品切れ状態で手に入らないっていうのはいかがなものか。なんとか復刊して下さいませ、新潮社様。