しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

「となり町戦争」三崎亜記(集英社)

図書館から回ってくるのを待ちきれずに買ってしまった話題の本(古本だけどね)。

となり町戦争

となり町戦争

最初にはっきり言いましょう。これはまぎれもない傑作ですっ(断言)!! こんな感想読んでないで、万人はすぐさま買って読むべし、読むべし!!
物語は、ある日、町の広報誌に「となり町との戦争のお知らせ」が載った時から主人公が否応なく巻き込まれていく「見えない戦争」の開戦から戦争終結までを描いたもの。決して戦闘行為を目にすることはなく、日常はいつもと同じに淡々とすぎていくにもかかわらず、広報誌に載る戦死者の数だけは着実に増えていくシュールな恐ろしさ。決して相手が憎いからでも、利害や思想が対立しているからでもなく、単なる地方自治体の事業計画の一環として淡々と「戦争事業」が遂行されていくシニカルな不気味さ(なんか、このあたり、徹底した「お役所仕事」で宇宙人と戦う、あさりよしとおの「中空知防衛軍」を思い出してしまった(笑))。
偵察行動も潜入工作も人が死ぬことも、すべてが「お役所仕事」として処理されてしまうさまは、あながち絵空事とも思えないだけに読んでて空恐ろしくなってくる。「こんなのしょせん非現実な『お話』じゃん」と思い込める人は「幸せ」で、実際に戦争という事態になったら、派手なファンファーレを鳴らして…って感じじゃなくて、この小説みたいに、それまでの日常とシームレスな感じで静かに忍び入るようにわれわれの日々の生活に入り込んでくるような気がしますね〜。昔、戦争を経験したお年寄りが「気が付いたら戦争が始まっていたが、日常生活は(最初の頃は)全然変わらず、実感がなかった」と話しているのをTVか何かで見たことがあるけど、まさにそんな感じになるんじゃないだろうか。現に今我々を取り巻いてる状況も、有事三法や国民保護法が成立するわ、集団的自衛権は既成事実まっしぐらだわ、さらには憲法九条は風前の灯だわ、この分だとあと数年後に新聞にチラシと一緒に折り込まれた「政府広報」に「戦争のお知らせ」なんて書かれてるってことも「ある!ある!」ってな状況なのに、それでいて我々の日常は、好きな本を読んで、話題の映画に盛り上がり、モー娘。のコンサートに行って萌え〜な毎日と、全然変わってないしねー(笑)
まあ、そんな意味から、この物語で描かれた「静かで淡々とした理不尽で不可解な戦争」は、巷にあふれた戦争ものとはまったく異なった「異質な戦争」でありながら、ある意味、もっとも「今、起こりうる戦争」の本質を鋭く描いてるような気がする。ずっと非現実的な感覚の中で戦争に参画していた主人公が、最後の最後に感じた「戦争のリアル」こそが、作者がこの小説の中で伝えたかったことだと思いますね。(評価:★★★★★)