しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

「オン・ザ・ロード」ジャック・ケルアック(河出書房新社)

★★★★

2008年最初の読了本。幕開け本としては文句なし。星4つ。

主人公サル・パラダイス(作家でケルアックの分身)と友人のディーン・モリアーティが、アメリカ大陸を何度も車で横断しまくる狂騒の物語。いやはや、この全編を貫く疾走感と迸るエネルギーは一体何なんだ? ヒッチハイクしながらアメリカをゆっくりと旅するロードノベルだと思って読み始めたのに全然違うぞ(笑)。

第2部以降は時速130キロ以上ぶっ放して、ノンストップで狂ったように爆走しまくり。騒いで飲んで踊って喋りまくって、サルに会うためだけにサンフランシスコからニューヨークまで車をぶっ飛ばしてくる、まるで針が振り切れたかのようなハイテンションで狂いまくるディーンがとにかくもうムチャクチャ凄い。こんなぶっとび小説が50年以上も前に書かれたなんて驚き。テイストとしては舞城王太郎とか近いかも(違うか…)。

結婚したり子どもができたり、歳を重ね生活が変わろうと、それでもロードへと戻っていき狂ったようなバカ騒ぎに身を委ねてしまうディーン。ただ一人変わらない彼の姿は悲しく寂しい。物語のラストでディーンに対して感じるこの悲しい気分が、それまでの輝かしい日々を改めて思い起こさせてくれる。ああ、物語のラスト、第5部の素晴らしさよ…。

今回の新訳は池澤夏樹個人編集による新たな世界文学全集の第1巻という位置付けだけど、この瑞々しい感性溢れまくる作品を最初に持ってきたのは「今までの文学全集とはちょっと違うぞ」と印象付ける意味からも大正解だと思う。ちなみにこれ読んだら、昔のジャズを大音量で聞きまくりたくなること請け合い。ジャズ全盛時代の空気を色濃く感じさせてくれる、むちゃくちゃだけどかっこいい、そんな作品でした。この全集、なかなか面白そうだから、次に出るマリオ・バルガス=リョサ「楽園への道」も読むかも。