しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

「それでもボクはやってない」

ひとたび電車内で痴漢に間違われたが最後、どれだけ無実を主張しようとも警察と検察がグルになって「犯人」に仕立てあげてしまう、そんな日本における司法の実態をつぶさに描いた佳作。

まあ、日本の警察の取調べが取調官による創作の世界であることは、朔立木の「死亡推定時刻」とかを読んでて知ってはいたけど、この映画ではさらに「素直に罪を認めたら略式起訴で5万円ほどの罰金払って即釈放。へたに否認したら何年も裁判で争って、それでも勝つ見込みはほとんどなし。さぁ、どうする?」っていう甘言が当たり前のように被疑者に囁かれてるという実態も暴いている。いやぁ、こんな風に「取り引き」持ち出されたら、よほど信念持ってないと抗えませんって。「略式起訴なら誰にもバレない」って言葉だけでも、社会人はみな「落ちる」だろうなぁ…。

ただ、物語としては優れてるけど映画としてはどうかというと、正直言ってそれほどでもないと思う。役者はそれなりの面子が揃ってるけど、みんないつもどおりのごく普通の演技で、この映画で特に光る何かは感じ取れなかったし、映画としての表現に斬新なところがあったわけじゃない。この映画の社会的意義は認めるし、社会派の物語にもかかわらずエンターテインメント性も兼ね備えてるという点も評価するけど、それらが「映画ならでは」のものでないという点が(映像表現として優れた点がいまひとつ見出せなかったという点が)どうしても物足りなく感じてしまう。点数付けるなら、75点ってところかな? うーん、これって、つい先日「ゆれる」というとんでもなく高いクオリティの映画を観た直後のため、点数辛めになってるっていうのは否めないんだけどね。

でもまあ、決して楽しいとはいえない重いテーマを描いてるにもかかわらず、日本の司法の問題点が次から次へとあからさまに暴かれていくのがとにかく面白くて、あっというまの2時間半でした。この映画をきっかけに、司法のあり方とか、何かが少しでも変わるといいんだけど…。