しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

「パコと魔法の絵本」

http://www.paco-magic.com/index.html

下妻物語」「嫌われ松子の一生」の中島哲也監督の新作は、後藤ひろひとの名作、舞台「MIDSUMMER CAROL がま王子vsザリガニ魔神」の映画化。私、この芝居が心底大好きなので(今年観た芝居の第2位。もう泣きまくり!)、映画化は期待半分不安半分でしたが、映画としてのよさも生かしながら、まあかなりうまく作られてたのでは。

ストーリーは、変な患者ばかりが集う、とある病院、嫌われ者の頑固じじい大貫が、1日しか記憶が持たない少女パコに心を許し変わっていくさまを描いた、涙ちょちょ切れの号泣物語。CGをバンバン使った映像と、あまりに大げさすぎる役者の演技は、映画としては効果的だし、お子様を取り込むって点では成功してるけど、舞台を観た者の感想としては、ちょっとおちゃらけすぎ。結果、個々の役者の掘り下げが希薄になり、物語の感動が薄まってると思う。笑いという点でも、舞台と同じ役の山内圭哉なんて、舞台の方が10倍は面白いし。

とはいえ、こうした不満はあくまで舞台と比べたら…という話で、このパコの物語の圧倒的な素晴らしさと感動は舞台も映画も同じ。この素敵な物語をまだ知らない人は、ぜひぜひ映画を観てほしい。私なんてストーリー知ってるから、前半、パコが出てきただけでもう泣いてましたよ…。とにかく必見、観て絶対に損はなし。間違いなく心が洗われます。

それにしても、これほど有名な役者が勢揃いしてるのに(役所広司妻夫木聡土屋アンナ阿部サダヲ加瀬亮小池栄子劇団ひとり國村隼上川隆也!)、誰が誰だかよくわからん映画っていうのもすごいな〜。小池栄子なんて最後まで小池栄子だってわからなかったぞ(笑)

「アイアンマン」

http://www.sonypictures.jp/movies/ironman/

堺さんは「今年のアメリカ映画は「ダークナイト」と「アイアンマン」がベスト」って言ってたけど、両方観てその意見に納得。完成度と深みでは「ダークナイト」に軍配が上がるけど、プレイボーイの天才社長が超絶メカを蒸着して空を飛びまくる「アイアンマン」も捨てがたし(笑)バットマンもそうだけど、普通の人間がメカの力で超人となる…って設定の方が、真の超人ものよりも好きですわ、私。今回、敵の存在が微妙に地味なのがあれですが、そのへんは次作以降(あるよね、当然?)に期待ということで。
それにしても、映画のラスト、エンドロールのあとに続きがありますってわざわざテロップが出てるのに、ぞろぞろ帰っていく人たちって何なの?(信じられませんわ…)

「ドレスデン・ファイル−魔を呼ぶ嵐−」ジム・ブッチャー

ドレスデン・ファイル―魔を呼ぶ嵐 (ハヤカワ文庫FT)

ドレスデン・ファイル―魔を呼ぶ嵐 (ハヤカワ文庫FT)

シカゴでただひとり電話帳に「魔法使い」として登録されている私立探偵ハリー・ドレスデン。身体から心臓が飛び出すという超常現象な殺人事件を魔法の力で捜査する…ってのが骨格なんだけど、万能のヒーローって感じじゃ全然なくて、魔法使うにも制限多いし、次から次に襲いかかる災厄に身も心もズタボロになるし、女性には奥手で散々な目に合うし、この情けなさがこういっちゃ何だけど読んでてむちゃくちゃ面白いのなんの。
吸血鬼とか妖精とかモンスターとか何でもござれだし、次から次へとスペクタクルなシーンが繰り広げられるし、それでいてハードボイルドな私立探偵ものとしても面白いし、いや〜、これはあまり期待してなかった分、拾い物でしたわ。
映像化されてるからぜひ観てみたいんだけど、TVシリーズってこの原作の映画化なの? それとも「魔法使いの私立探偵」って設定を借りただけのオリジナル? う〜ん、ちょっと不安だ…。

第29回日本SF大賞候補作発表

第29回日本SF大賞の候補作が発表(選考会は12月2日)→ http://www.sfwj.or.jp/list.html

『Boy's Surface』 円城塔
『MM9』 山本弘
『赤い星』 高野史緒
新世界より(上・下)』 貴志祐介
電脳コイル』 磯光雄

前回受賞作が「星新一 一〇〇一話をつくった人」、前々回受賞作が「バルバラ異界」だったから、今回はさすがに小説が受賞するのでは?

「Boy's Surface」は読者を選ぶし、「赤い星」は大賞というにはちょっと弱い。というわけで「MM9」と「新世界より」の一騎打ちと予想。「新世界より」はもう十分すぎるほど話題になってるし売れてるから、私としては「MM9」が受賞してほしいなぁ。

なんて言ってますが、現実的には「電脳コイル」の同時受賞とか確率高そう。なんてったって徳間書店だし(笑)単独受賞もありかも。

「おくりびと」

http://www.okuribito.jp/statics/introduction.html

静かな、でも内に熱い想いを秘めた作品。納棺師を演じる本木雅弘が素晴らしい。

本木雅弘も、妻役の広末涼子も、社長の山崎努も、自分の想いや本当の気持ちをセリフで語るのではなく、小さなエピソードの積み重ねや表情の変化で観る者に感じさせてくれる、そんな演出に、いやそんなさりげない演出だからこそ大きく心揺さぶられる。もう、泣きまくり。

最初は嫌々だった「死者を送る仕事」を次第に誇りに感じていく主人公の心の変化。夫の仕事に大反対だった妻の、やがて夫の仕事を認め誇りに思うように変わっていくさま。失踪していた父への主人公の想い…。うーん、素晴らしすぎる…。

やたら何でも言葉で説明しがちな、そんなTVドラマの延長線みたいな映画と違って、こんな風に映像で語る作品こそが真の映画だと思う。今のところ、ぶっちぎりの「今年観た邦画」第1位。もう一度観たい。

#あとは「トウキョウソナタ」を観て、順位が入れ替わるかどうか。

#そうそう、いろんな記事に「妻役を初めて演じる広末涼子」って書いてあるんだけど、東野圭吾の「秘密」って妻役だったんじゃ…(まあ、身体は娘って設定でしたが)。

「エヴァ・ライカーの記憶」ドナルド・A・スタンウッド

エヴァ・ライカーの記憶 (創元推理文庫)

エヴァ・ライカーの記憶 (創元推理文庫)

★★★☆

豪華客船タイタニック号の沈没、タイタニックの惨禍から生き残った夫婦の惨殺事件、そして大富豪ライカーによるタイタニック号引き揚げ計画。時を隔てた三つの事件が複雑に絡み合う、内容てんこ盛りの本書、26年ぶりに復刊ということで、そのノンストップのアクションと謎解き、権謀術数の数々の面白さが話題だけど、私としては正直、ちょっと期待が大きすぎたような…。

確かに前半、陰謀に巻き込まれていく主人公ノーマンの活躍は読んでて面白いけどちょっと出来すぎな感じで、展開される内容ほどハラハラドキドキしないし、謎解きもタイタニック号沈没パートの中で唐突に明かされるものが多く、伏線に基づくものではないため驚き度合いは低いし。タイタニック号沈没を克明に描いた謎解きパートは引き込まれましたが。

とはいえ、これはあくまで多大な期待に見合わなかったというだけで、冒険とサスペンスと謎解きを巧みにブレンドしたエンタメの佳品であることは確か。大多数の人が大絶賛なので、読んで損はない…はず。

#ただ、557ページで本体1,400円ってちょっと高すぎ。他所の文庫だったらせいぜい1,000円くらいでは…。