しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

イキウメ「表と裏と、その向こう」(7/18 at HEPホール)


http://www.ikiume.jp/monogatari.html

初めて観る「イキウメ」の舞台。

すべての人間が固有のIDで管理され、個人の行動履歴がすべて管理される近未来のある町。ネットカフェに引き篭もる主人公は、コンビニに勤める叔父が「客から時間を買い上げる」商売をしていることに気付く。1時間いくら、1分いくらと時間を売った客は、指定した時刻から売った時間分だけ「死ぬ」ことになる。主人公の友人は、毎日深夜4時から1分間ずつ時間を売るが、ある日深夜にバイクに乗っていた彼は、4時から1分間だけ「死」を迎えた瞬間、事故を起こしてしまう。やがて、このID管理社会の町が、徹底管理による安寧と引き換えに、住民の「時間」を収奪している事実が明らかとなっていく…。

とまあ、近未来SF的な設定はかなり面白い。以下、少しネタバレになるが(注意!)、住民のすべての行動だけでなく「時間」さえも管理する町が、人々の1秒間につき三十分の一秒ずつの時間を本人の知らぬ間に奪い、その集積された時間が闇で取引されているというネタはかなり秀逸。

…なんだけど! うーん、せっかくの面白いアイデアがうまく芝居という形に生かしきれていない感じ。時間さえも奪ってしまう管理社会の怖さが十分描ききれていないし、撮影した映像のコマ送りで三十分の一秒だけ誰もが死んでいる事実が判明するくだりとか、もっと話を転がしていけばいくらでも面白くなるのに…と思うと残念。
余命幾ばくもないストリートファイターの少女が、自己の死を見つめていく話がこの芝居のもう一つの要なんだけど、時間さえも売買されるというSFネタと、この「死」に対する主人公と少女のぐちゃぐちゃしたやりとりがどうにもちぐはぐで、うまくストーリーとして噛み合っていない感じ。

「商品」として売買されるまでになった客観的存在としての「時間」、しかし、間近の「死」を前にひりひりするような充実した「生」を生きる瞬間、人は主観的な時間を延ばすことができるというメッセージはなんとなくわかるけど、全体的にちょっと消化不良な感じは否めない。ストリートファイトの少女の話を丸ごと削って、時間売買ネタ1本に絞って話を膨らませた方が、SFドラマの秀作となったのでは? ちょっと惜しい舞台だった。