しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

「拷問者の影(新しい太陽の書1)」ジーン・ウルフ

拷問者の影(新装版 新しい太陽の書1) (ハヤカワ文庫SF)

拷問者の影(新装版 新しい太陽の書1) (ハヤカワ文庫SF)

遙か遠未来、老いた惑星ウールスで〈拷問者組合〉の徒弟として働くセヴェリアンは、反逆者に荷担した疑いで捕らえられた貴婦人セクラに恋をする。組合の厳格な掟を破り、セクラに速やかな死を許したセヴェリアンは、〈拷問者組合〉を追われ、死にゆく世界を彷徨することとなる……。巨匠ウルフが持てる技巧の限りを尽くし構築した華麗なる異世界で展開される、SF/ファンタジイ史上最高のシリーズ。新装版でついに開幕(Amazonの紹介文より)

初回版を2冊ずつ、数年前の復刊版を1冊ずつ、計3セットも持ってるのに未読だった「新しい太陽の書」ですが、今回新装版が出たのでようやく初読みしたしだい(遅いよ…)。まあ、冷静に考えたら手持ちのやつを4巻まで読んで、新たに出る5巻だけ買えばいいんだけど、そこはそれ小畑健の表紙も欲しいし。

で、第1巻を読んだ感想ですが、中世を思わせる舞台設定は緻密で濃厚。拷問者という本来ならば忌み嫌われる仕事が一定のステータスを持ち、拷問者組合の徒弟がみな誇りを持って修行する、そんなウールスの社会通念というか世界の構造が面白い。あと、残虐な拷問シーンでさえもなぜか美しく感じさせてしまう濃密な描写の冴えは、さすがウルフと唸らされる。ストーリーの面白さもさることながら、この死と謎に満ちた美しい世界にどっぷりと浸れるという意味で、読んでいて幸せな気分になれるのもいい。

物語は、主人公のセヴェリアンが掟を破り彷徨の旅をまだ始めたところで、このあと彼がどのような運命を辿るのか楽しみなところ。主人公と旅を共にするドルカスもすごく気に入ったし。この「剣と魔法」風のファンタジーが、どのように「SF」に変質していくのかも楽しみだ。第1巻を読了した現時点では、あとがきで柳下毅一郎氏が書くように「20世紀最高のSFファンタジー」とまではさすがに思えないのだが、まあ、そこは次巻以降に期待ということで。