しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

「ホミニッド」ロバート・J・ソウヤー(ハヤカワ文庫SF)

…というわけで、休んでたあいだに読んだ本、その2。

ホミニッド-原人 (ハヤカワ文庫SF)

ホミニッド-原人 (ハヤカワ文庫SF)

クロマニヨン人が絶滅し、かわりにネアンデルタールが進化した世界で、量子コンピュータの実験をしていた物理学者のポンターは、不慮の事故でいずこかへと転送させられてしまった。一方、カナダの地下の研究所で実験を行っていたルイーズは、自分の目を疑った。密閉した重水タンクのなかに異形の人物がいきなり出現したのだ! 並行宇宙に転送されたネアンデルタールの物理学者の驚くべき冒険とは…?(裏表紙紹介文より)

ソウヤー念願のヒューゴー賞受賞作。ネアンデルタール・パララックス三部作の第1作ということで、これは読まずばなりますまい。リーダビリティの高さはいつものソウヤーで、これがむちゃくちゃ面白い!
もしネアンデルタール人が絶滅しておらず、クロマニヨン人に替わって唯一の人類として進化した平行世界があったならば…というのがテーマだが、本書がとにかく面白いのは、ネアンデルタール人という設定そのものじゃなくて(はっきり言って、実はネアンデルタール人じゃなくて、単にパラレルワールドから来た人類という設定でも本書はある程度成立すると思う)、彼らの高度に発達した社会の仕組みや制度、道徳観、男女関係の風習など、我々とまったく異なった価値観によって創り上げられた世界が次々と提示されていく点なのだ。
インプラントのようなコンパニオンが手に埋め込まれ、すべての人のあらゆる行動が「アリバイ履歴」として映像記録されているため、犯罪がほとんど起こらない社会だとか、人口抑制のため、ひと月のうち女性の排卵周期から絶対に妊娠しない5日間だけ男女が会える制度とか、とにかく面白いアイデア満載で、それだけで読んでて飽きさせない。
さらに、我々の世界とネアンデルタールの世界を交互に描き、片やファーストコンタクトによる大騒動、片や法廷サスペンスと、いやもうソウヤーったらサービス精神満点(笑)
難を言えば、三部作の1作目のためか、「えー、ここでもう終わっちゃうのー?」という欲求不満が残る点か。まあ、6月と10月に続けて出るのが決まってるから、ここは我慢して待つといたしましょう。とにかく面白いのでおすすめ。(評価:★★★★☆)