しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

「世界の涯まで犬たちと」アーサー・ブラッドフォード(角川書店) ★★★★

世界の涯まで犬たちと

世界の涯まで犬たちと

恋人の飼い犬と寝てしまい孕ませてしまう男とか、雪蛙の卵を飲み込み口から蛙を産む少女とか、ちょっと(いやかなり)変な出来事が日常的でごくありふれたことのように淡々と語られる、なんだか不思議な雰囲気の短篇集。

収録された14編のうち大半は超自然な要素のない普通の小説なのに、前述の一風変わったお話とこれらが違和感なく溶けあって一つの短篇集を構成しているのが面白い。
どのお話も自己主張が乏しく気の弱そうな今風の若い「ぼく」が主人公で、せっかくもらったマットレスを道路で宙に飛ばしてなくしちゃうなんてささいなことも、チェーンソーで誤って少女の顔を血だらけにしちゃう大変なことも、等しく「ちょっと困ったこと」って感じで語られてて、それがまた自然な感じで読めちゃうからなんとも不思議。

う〜ん、全編に漂うこの独特の空気、私にとってはかなりツボでした。作者はあと1冊書ければ満足とか言ってるらしいけど、そう言わずにこれからも変な短編を読ませてほしいなぁ。