しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

「競売ナンバー49の叫び」トマス・ピンチョン(サンリオ文庫)★★★★☆

競売ナンバー49の叫び

競売ナンバー49の叫び

cakeさんが経営するブックカフェ「書肆アラビク」で初めて買った本。上の書影は筑摩書房のものですが、買ったのはもちろんサンリオ文庫版。

亡くなった資産家の元愛人から遺言執行人に指名されたエディパは、彼が残した遺産を調べるうち、謎の「郵便ラッパ」マークに行く先々で出会う。この不思議なマークが意味するものは何なのか? そして歴史の裏に潜む謎の組織とは?

冒頭、エディパが遺言執行人に指名される1ページ目からなぜか非現実感が漂う世界に幻惑されっぱなし。中古自動車販売員時代のトラウマに悩まされるDJの夫ムーチョとの会話も、夜中に突然電話してくる精神科医ヒレリアスの異常さも、昔映画の子役をしてた共同遺言執行人メツガーと繰り広げるモーテルでの乱痴気騒ぎも、とにかく何もかもが「変」で、この段階で早くもこの物語の虜になってる私…。

やがて、郵便ラッパのマークの謎をエディパが調べ始めるあたりから、歴史に暗躍する「ある組織」の姿が浮かび上がってきて、この辺はまあ普通の謎解きサスペンスっぽくてちょっと減速気味なんだけど、本書が凄いのはそのあと。真実と虚構の境い目がしだいに虚ろになっていき、読んでいて足元が崩れていくような(あるいは世界がぐりんと裏返しになってしまうような)感覚に襲われてしまう。これは(異論があるかもしれませんが)クリストファー・プリーストの「魔法」や「双生児」を読んだ時に感じた感覚に近いかも。

そして、あまりにも鮮やかなラストシーンが素晴らしすぎ。この「映画のような」ラストはいつまでも記憶に残って忘れないこと間違いなし。しばらく時間を置いて、今度はもっとじっくり味わいつつ再読したい一冊。傑作。(評価:★★★★☆)