しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

「ヴィズ・ゼロ」福田和代(青心社)★★★☆

2ヶ月以上もサイトをほっぽらかしておいて、しれっと復活するというのが我ながらなんとも(苦笑)

ヴィズ・ゼロ

ヴィズ・ゼロ

台風により孤島と化した関西国際空港緊急着陸するハイジャック機。犯人の要求は何なのか。また、名うてのクラッカー「ファントム」の事件への関わりは。そして、13年前に起きた学生惨殺事件との関連は…。

新人とは思えない筆致と緻密な構成により、最後まで一気に読めるリーダビリティはなかなかのもの。割と早い段階で犯人に乗客を傷つける意思がないことが読み取れてしまい緊迫感が削がれてしまうことや(サスペンスなのにハラハラ感がなくなってしまうので、これが一番致命的かも)、犯人グループの一人が主犯に協力する行動原理が理解できないことなど、いろいろ気になる点はあるものの、処女作でここまで書ければ及第点でしょう。

それにしても、これだけ読ませる作品を書いた作者が何かの賞を取って出てきた新人ではなく、「創作サポートセンター」の講座に通っていた一介の生徒であり、課題で提出した作品に目を留められ出版に到ったという経緯に驚かされる。大型書店でもほとんど見かけないので、この本の存在すら知らない人が大半なんだろうなぁ、もったいない。大森さんの大げさな帯も付いてることだし(笑)、書店で平積みとかしたらそこそこ売れると思うんですが、青心社だとそれもちょっと難しいのかなぁ。

まあ、大絶賛とまではいきませんが、読んで損のない一冊。少なくとも面白さという点では、2時間のスペシャルドラマの原作に選ばれてもおかしくないと思う。この作者、こんな感じで書き続けたら数作後にブレイクして、硬派なサスペンスの旗手として「第二の高村薫」みたいな存在になるかも。(評価:★★★☆)