しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

「カブールの燕たち」ヤスミナ・カドラ(早川書房)★★★★

カブールの燕たち (ハヤカワepi ブック・プラネット)

カブールの燕たち (ハヤカワepi ブック・プラネット)

タリバンに支配されたアフガニスタンの人々の地獄の日々をつぶさに描いた秀作。
音楽などあらゆる娯楽を禁じられ、一切の人間らしい感情を示すことさえ許されない、そんな抑圧された社会で生きる人々の諦念に満ちた日常に、読んでいて慄然とし息苦しさを感じるほど。

さらに、こんなどん底な状況でさえ、古くからの男尊女卑の思想が虐げられた人々のあいだに根強く残ってることにも嫌悪感を感じてしまう(病気になった妻のことを主人公が友人に相談しても「そんな役に立たない女は捨てて若い元気な妻をもらえばいいだけじゃないか。おまえは何を悩んでるんだ?」といった感じ)。

そしてこの作品における衝撃の極めつけは、ラスト近く、主人公の妻が取る信じられない行動だ(この行動の衝撃は「ある秘密」のアンナの行動をも凌駕するほど…)。こうした考えが抑圧と男尊女卑の地アフガニスタンでは決して特異なものでないとするならば、この地は本当に病んでいる。そして、救いのない結末…。

決して読後感がいい物語ではないが、様々なことを想起させる作品であり、一読の価値はあると思う。でも、次作の「テロル」はしばらく間を置いてから読むことにしよう…(こんな重い話、立て続けに読めませんって)(評価:★★★★)