しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

「密室殺人ゲーム王手飛車取り」歌野晶午(講談社ノベルス)★★★☆

密室殺人ゲーム王手飛車取り (講談社ノベルス)

密室殺人ゲーム王手飛車取り (講談社ノベルス)

<頭狂人><044APD><aXe><ザンギャ君><伴道全教授>。奇妙なニックネームをもつ5人がインターネット上で殺人推理ゲームの出題をしあっている。密室、アリバイ崩し、ダイイングメッセージ、犯人当てなどなど。ただし、ここで語られる殺人はすべて、現実に発生していた。出題者の手で実行ずみなのである……。茫然自失のラストまでページをめくる手がとまらない、歌野本格の粋を心して噛み締めよ!(講談社BOOK倶楽部紹介文より)

「必ず出題者によって、実際にその殺人が実行されていること」を縛りとした、ネット上での殺人推理クイズ。罪の意識のかけらもなく、ただ出題する推理クイズのためだけに殺人を重ねる登場人物たちに嫌悪感や不快感を感じる人もいるだろうけど(いや、この本を手に取る人にそんな人はいないか)、本格ミステリの登場人物なんて程度の差ことあれ死者に哀悼の気持ちなんて持っていないし、探偵も謎を解く上でそんなものは不要。そう考えると、ここまでゲーム感覚に徹しきった本作はむしろ潔いと言えるかも。

作中で出題される問題は、それだけで単独の長編に仕立て上げるにはいずれも小粒だが、こうした推理合戦の体裁を取ってるためか、ダメダメなトリックも含めてどれもこれも読んでて本当に楽しい。読み始めた最初は「実際に設問の殺人を実行済みであることは、小説のケレン味としては効果的だが、クイズを出題するという観点では意味がないのでは?」とも思ったけど、すぐにこの条件が「出題者が犯人なのでフーダニットの問題が出せない」「出題者が実際に実行できないような殺人は解答ではない」など、現実の殺人事件であるゆえの「縛り」となることがわかり、こうした制約の中でどんな問題を出すのか? といった興味も相俟ってとても面白かった。もちろん、歌野晶午ならではのサプライズはあるし、新本格が好きな人はきっと気に入るはず。

ただ、唯一不満を言わせてもらうと、あのラストは失敗だと思う。せっかく知的な推理ゲームを繰り広げてきたのに、あのラストではそれらがすべて台無しになってしまう気が…。ラストの一歩手前で終わらせてたら(もしくは、最後にもっとすごいトリックやサプライズを持ってきてたら)、さらに傑作になっていたのに…と思うと残念だ。(評価:★★★☆)


PS  あ、もう一つ不満が…。このタイトル、もう少しなんとかならなかったのか? 「密室殺人ゲーム王手飛車取り」って、センスのかけらもないような気が…。覚えにくいし。せっかく知的な推理合戦を繰り広げるストーリーなんだから、もっとセンスあるかっこいいタイトルにしてほしかった。さらに言うと、表紙のイラストも最悪だと思うんだけど、うーん、私の感覚がおかしいのかなぁ。