しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

「ユメ十夜」

夏目漱石の「夢十夜」を競作の形で映像化したら…という夢の企画。監督一人一人の個性が色濃く出てて面白かったですね。原作は確か10代の頃に読んだはずだから、少なくとも映画を観たら思い出すはず…と思ってたのに、あまりにもアレンジしまくっていて「こんな話あったっけ?」と最後まで思い出せないエピソードがほとんど(笑)

第一夜はさすが実相寺昭雄で、幻想的で不条理な映像美に酔いしれます。小泉今日子がいいですね。この作品、実相寺昭雄監督と脚本の久世光彦がともに公開を待たずにお亡くなりになったというのがなんとも…。

第三夜は原作もすごく怖いんだけど、この原作の不気味さをさらに昇華させ怖さを増幅させた清水崇はさすが。第四夜も原作からかけ離れてますが、時を超えた哀しいファンタジーとしてよく出来てましたね。菅野莉央はロリの人は要チェックかも。第五夜はなんだかよくわからなくて荒削りだけど、市川実日子の「目ぢから」とその凛々しさだけでも必見。

そしてなんといっても第六夜、松尾スズキの作品。衆人の前で運慶が仁王を彫るというあの有名な話を、基本線は原作に忠実に描いてるんだけど、その表現方法がぶっ飛びまくり。全編モノクロで英語字幕入り、でもって運慶役のカリスマアニメーションダンサー・TOZAWAがダンスパフォーマンスしながら彫るわ(これがまたすごいんだ)、観客は全員2ちゃん語でしか話さないわ(それがすべて英語字幕入りだからさらに笑える)、おまけに主演があの阿部サダヲで切れまくってるんだから面白くないはずがない。ぜひ一度は観てほしい怪作(笑)

第七夜は、天野喜孝の描く絵がひたすら美しい異色作。第九夜、期待の西川美和の作品は、緒川たまきがお百度を踏む軍人の妻を熱演…というか、昭和初期の女性そのものという当たり役。

そしてラストの第十夜が、第六夜もかすむほどものすごい。なんせあの漫☆画太郎が協力してるというだけで推して知るべし。いきなり松山「L」ケンイチが内臓とか目玉とかをだらだら零しながら現れたかと思うと、いつしか豚丼屋に舞台は移り、ここで女主人の本上まなみと共に地獄の豚丼ワールドが展開されていくのだ! 本上まなみの体当たり演技は必見。いやぁ、若くてきれいな女優さんがよくぞここまでやってくれました(笑)

まぁ、一夜ごとに出来の差はけっこうあるけど、漱石の原作を素材にここまで好き放題してるのってすごいかも。