しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

「水滸伝 曙光の章」北方謙三(集英社文庫)

水滸伝 1 曙光の章 (集英社文庫 き 3-44)

水滸伝 1 曙光の章 (集英社文庫 き 3-44)

十二世紀の中国、北宋末期。重税と暴政のために国は乱れ、民は困窮していた。その腐敗した政府を倒そうと、立ち上がった者たちがいた―。世直しへの強い志を胸に、漢たちは圧倒的な官軍に挑んでいく。地位を捨て、愛する者を失い、そして自らの命を懸けて闘う。彼らの熱き生きざまを刻む壮大な物語が、いま幕を開ける。第九回司馬遼太郎賞を受賞した世紀の傑作、待望の文庫版刊行開始。(裏表紙解説文より)

全19巻という長さに怯みつつも、あまりにみんなが「いい!」と絶賛するため、文庫化を機に一念発起して読み始めたが、いや〜まさかこんなに面白いとは。志を持った男たちの熱い想いが全編からひしひしと伝わり、何度も何度も魂が揺さぶられる。志を持つ人間の懐の深さに人が惹き付けられていく様は、読んでて胸が熱くなってくる。

面白いのは、官軍を倒すため、単に剣術などの「力」だけで立ち向かっていこうとするのではなく、戦うための安定した資金源として官軍が牛耳る「塩」の闇ルートを開拓したりとか、優れた医師を確保するため命がけで牢に潜入したりとか、絡め手からのアプローチにより地盤を固めようとする点。短期決戦ではなく長期戦の構えで足場を固めていく様が興味深い。

第一巻の見どころは、策略により嵌められた禁軍武術師範・王進と、同じく罠にかかり禁軍を追われる林冲の運命の変遷、国中を巡り宋江の教えを伝え人のつながりを広げていく魯智深の存在感、同じ志を持つ指導者たる宋江晁蓋の邂逅といったあたりか。他にも、暴れ者・史進の改心や、盧俊義や燕青の暗躍など、全編目が離せないほどの面白さ。第一巻にして早くも53人もの人物が登場し、これから先どんな壮大な物語が展開するか楽しみで仕方がない。水滸伝をこのような熱いドラマとして現代に甦らせた北方謙三、さすがである。