「シャドウ」道尾秀介（東京創元社）★★★★☆

シャドウ (ミステリ・フロンティア)

初めて読む道尾秀介。「このミス」第３位も納得…いや、１位や２位でもいいんじゃないかと思える作品でした。ミステリ読んでこんなに感動したのは久々かも。

妻を癌で失い、悲しみに暮れる洋一郎と小学５年の息子、凰介。洋一郎の親友である徹は妻の恵との冷え切った関係に絶望し、一人娘の亜紀はそのことに深く心を痛める。やがて、そんな彼らに一つの事件が訪れる…。

真相を巧みに隠した思わせぶりな文章もうまいし、ミスディレクションやサプライズも効いていて、謎が解き明かされるラストまでぐいぐい引っ張っていってくれる力量は新人（まだ「新人」って言っていいですよね？）とは思えないほど。でも私はそんなミステリとしての面白さよりも、主人公たちがつらく哀しい過去や悲痛な現実に傷つきながらも互いを思いやり生きていこうとする姿に、どうしようもなく心が揺さぶられました。うーん、ミステリとしての評価を一番としていないのはこの作品に対して失礼なのかもしれませんが、最初から最後まで誰一人としていいことのない悲惨な物語のはずなのに、読み終わったあと、凰介や亜紀たちがこれから悲しみを乗り越え生きていく姿を思うと温かな気持ちにさせてくれる、そんな「救い」を持った、いつまでも心に残る傑作だと思います。

他の作品もこんな感じなのかなぁ。次はつんどくになってる「向日葵の咲かない夏」を読まなくちゃ。 （評価：★★★★☆）

※蛇足ですが、主人公たちと同じ小学５年の子どもを持つ親としては、あの歳であんなにしっかりしてるって点だけが現実離れしてるなぁって思いました（笑）