しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

SFマガジン2006.12月号感想


「秋のファンタジイ特集」

基本的にファンタジーは苦手なんですが、この12月号はなかなかいい作品が揃っていて、私でも十分楽しめました。特に「イーリン・オク伝」が素晴らしい。京フェスでかつきさん(だったかな?)が薦めておられたのも納得。「マルドゥック・ヴェロシティ Prologue 100&99」は「ここだけ読んで採点するのもなぁ…」って思い読んでないのでパス。


「地下室の魔法」エレン・クレイギス +1

継母にいじめられ絶望する少女メアリ、そして彼女の前に現れる魔法使いの家政婦ルビー…。この物語、メアリにとっては確かにハッピーエンドで彼女は最後に救われるんですが、現実に虐げられている多くの子どもたちの前にはルビーはおらず、今この瞬間にも苦しんでいる子どもたちが世界中にたくさんいるかと思うと、物語は希望を感じさせるラストなのに読了後に少しだけ暗い気分が残りました…。また別の作品が訳されたら注目したいですね。


「イーリン・オク伝」ジェフリイ・フォード +2

この素晴らしさをどう表現したものか…。砂浜の砂の城とともに生まれ、一夜限りで死んでいく妖精のはかなくも美しい物語。ハマトビムシを仲間にし、ネズミたちと戦い、流れ着いた瓶に閉じ込められてたメイワと恋に落ち、そして、そして…。一つ一つのエピソードは人間の長い人生と比べたらどれもほんの些細な出来事なのに、それらがみな例えようもないくらいきらめいて感じられるのは、イーリン・オクが限られた生を真摯に生きたからでしょう。最後にイーリン・オクが短い人生を述懐するシーンは感涙ものでした。解説に「一夜の人生を描く物語は若い読者よりも、ある程度の年齢を生きた人の方が、しみじみと味わえるのではないでしょうか」と書かれていますが、確かにそうなのかもしれません。


「使い魔」チャイナ・ミエヴィル +0

生き物の身体の一部とかガラクタとか石とかプラスティックの配管とか、あらゆる雑多なものを身体に取り込んで巨大な化け物と化していく魔法使いの使い魔。魔法がどうとかよりも、ただただグロテスクに自らの身体を変容させていく使い魔のパワーに最後まで圧倒され「さすが、いつもどおりミエヴィルは熱い!」と関心はするものの、だからといって面白いかというとよくわからない。私としては前回掲載作の「ロンドンにおける〜」の方が好み。


「一ドルで得られるもの」ブライアン・W・オールディス +0

人々が宇宙開発よりも地球上の現実的な開発事業に投資をする蓋然世界(パラレルワールド)を訪れた主人公の述懐。小説の体裁を取ってはいるものの、ブライアン・W・オールディスの主義主張が前面に押し出されすぎており、改変世界SFとして純粋に面白いかと問われると疑問。