しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

「ゲド戦記」

ゲド戦記

公式サイト→http://www.ghibli.jp/ged/


先週の土曜日、「ゲド戦記」見てきました〜
世間ではむちゃくちゃ叩かれまくってますが、Yahoo!ムービー(→http://moviessearch.yahoo.co.jp/userreview/tymv/id324031/)とかであそこまで寄ってたかってボロクソ言うほどひどくはないような気が。それなりに楽しめる部分もないこともないし、少なくとも途中で席を立って帰るなんてことはなかったですね。まあ、普通にダメな映画ってレベル。中の下か、下の上ってところ。採点すると、100点満点で35点くらいかな。


ちなみにこの映画のダメなところを、ネタばれしない範囲でいくつか挙げると、

■とにかく、登場人物の気持ちというか、心の動きというか、感情というか、そういったものが全然描けていない。たとえば映画の冒頭、主人公のアレンが父親を殺すけど、なんで殺したのか意味不明。あまりに唐突だし、その後も説明なし。父親に対する葛藤が原因だっていうのなら、アレンの気持ちや苦悩、心の動きをきちんと描かないと。アレンがいったい何に苦悩してるのかさっぱりわからないので、最後までアレンという人間がよく理解できないし。言葉による説明があるから一応なんとなくわかるんだけど、説明じゃだめなんですよ、演出で観る人に伝えなきゃ。
このアレンの例をはじめ、ハイタカ(ゲド)にしろ、テルーにしろ、人物造形が薄っぺらくて、何かを行動する時も、気持ちが変化する時も、単にシナリオを進めるためだけのセリフであり行動にすぎないので(その人物の背景をていねいに描いていないので、行動やセリフに深みがないというか…)、観客に実感として伝わってこない。ハイタカは結局何のために旅をしているわけ? アレンに頑なな態度を取り続けてたテルーがなんで突然心を開くわけ? 心を開くなら開くで、そのきっかけとなる出来事や言葉をきちんと描いて、観る者を納得させなきゃ。とにかく、ストーリーを進めるのにあっぷあっぷしてる感じで、人の気持ちの自然な動きを描くとこまでは全然手が回ってない感じ。


■場面転換…というか、ストーリー運びがおもいっきり下手(特に前半)。流れというものがなく、エピソードや場面がパラパラと繋がってるだけって感じで、ぎこちないことこの上なし。まあ、この辺はアニメを作るの初めてだから仕方ないのかもしれないけど、まわりに今まで宮崎アニメを支えてきたスタッフがいるのに、もう少し何とかならなかったのか。ラストのテルーの「あれ」も、狙いはわかるんだけどあまりに唐突すぎ。もうあと一つ二つ伏線を張っておかないと。


■原作未読なんですが、映画を観てて、この物語の舞台というか設定というか「世界」が全然わからない。人買いが横行し、人々は奴隷になって苦しんでいるっていうのはわかるけど、それ以外よくわからず、結局この「ゲド戦記」って物語が、何が発端で何を目指してる物語なのか、そもそもどんな話なのか、ハイタカやアレンやテルーが物語世界にどのような影響を及ぼすのか(及ぼさないのか)さっぱりわからない。ほら「指輪物語」だったら「邪悪な指輪を葬ろうと旅をする話」だし、「ナルニア国物語」だったら「たんすの奥の異世界に迷い込んだ子どもたちが、ナルニア国を冬の女王から守る物語」って感じで、物語の大枠の構造とかテーマがわかるじゃないですか? そういう基本線が全然わからないんですよ。だから観終わって「結局「ゲド戦記」って一体なに?」って疑問しか残らない。不老不死を望むクモとの対決の物語? なんか違うような気がする…。「真の名」についても、原作読んでる人にはわかるのかもしれないけど、映画で初めて「ゲド戦記」に触れた人にはさっぱりですよ。竜も原作ではもっと重要なポジションのような気がするんですが(予想ですが)、違います?


■キャラクターデザインもちょっと…。今までの宮崎アニメのラインを踏襲してるのはいいんだけど、それを貫き通していないから、たとえばアレンなんか、苦悶の表情や凶暴な表情を浮かべたとたんに楳図かずおになってしまう、いやマジで(笑)(特に口のまわりのしわとか…) 宮崎アニメのキャラが楳図キャラに瞬時に変わるのっていかがなものか…。


ああ、書き出したらきりがない!! もうこの辺で置いときますが、最後に原作を読んでる人に質問が。
この映画、演出はともかくとして、ストーリーはある程度原作に忠実なんでしょうか? いや、このストーリーだと、とても「世界三大ファンタジー」のひとつとは思えないので…。


PS そうそう「テルーの唄」はよかった!! これに限っていえば100点ですね(あ、あくまで100点なのは「テルーの唄」そのものであって「テルーの唄」のシーンではありません。「テルーの唄」のシーンは100点満点で5点ってところです…)。