しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

ジャック・リッチー「クライム・マシン」(晶文社)★★★☆

クライム・マシン (晶文社ミステリ)

クライム・マシン (晶文社ミステリ)

殺し屋リーヴズの前に現れた男は、自分はタイム・マシンであなたの犯行を目撃したと言った。最初は一笑に付したリーヴズだが、男が次々に示す証拠に次第に真剣になっていく。このマシンを手に入れればどんな犯罪も思いのままだ……。奇想天外なストーリーが巧みな話術で展開していく「クライム・マシン」、ありふれた“妻殺し”事件が思わぬ着地点に到達するMWA賞受賞作「エミリーがいない」をはじめ、迷探偵ヘンリー・ターンバックル部長刑事シリーズ、異常な怪力の持ち主で夜間しか仕事をしない私立探偵カーデュラの連作など、オフビートなユーモアとツイストに満ちた短篇ミステリの名手、ジャック・リッチーの傑作17篇を収録したオリジナル傑作集。その簡潔なスタイルと見事なストーリーテリングは、ヒッチコック、クイーン、ウェストレイクら、多くの「目利き」たちから絶賛を浴びている。(Amazonの紹介文より)

小気味よくて洒落ててユーモア溢れる短編集。小粒ながらも思わずにやりとさせられる作品のオンパレードで、なるほど「短編の名手」と呼ばれるのも納得。まあ、短い紙数でまとめるために「ちょっと出来すぎとちゃうん?」と言いたくなる展開の作品もいくつか見受けられますが(「旅は道づれ」とか「記憶テスト」とかね)、「たぶんこういう落ちなんだろうなぁ」と確信しながら読んでたら最後に「ええー!」っていい意味で期待を裏切られて唖然となる作品も多くて(特に「エミリーがいない」は傑作!)、この辺がジャック・リッチーの非凡なところなんでしょうね。
とにかく、もうほんとに最後の最後の落ちがあまりに鮮やかに決まってるので、読んでて楽しいのなんの。「エミリーがいない」はもちろん、「クライム・マシン」「殺人哲学者」「切り裂きジャックの末裔」「罪のない町」、どれもこれもお見事。
こんなに面白い短編を350篇も残してるんだから、もっともっと翻訳してほしい。翻訳がこれ1冊しかないっておかしいですよ? このミスで1位も取ったし*1、売れまくって品切れ状態になるくらいだから、晶文社さま…じゃなくて、晶文社から海外ミステリ事業を引き継いだ河出書房新社さま、ぜひぜひよろしくお願いします。(評価:★★★☆)

*1:これについては、ちょっと意見があるんですが…。確かにこの短編集は面白いけど、翻訳ものの年間1位というのはいかがなものかと…。