しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

「容疑者Xの献身」東野圭吾

容疑者Xの献身

容疑者Xの献身

★★★★

今さら私がどうこう言うまでもない、史上初の「このミス」「本ミス」「週刊文春ミステリーベスト10」の三冠をぶっちぎりの得票で達成した傑作。とはいえ、私としては不満がないわけではなくて…。

この作品は、数学者・石神の自己犠牲的で献身的な愛の美しさと哀しさについて語られることが多いのですが、私にはどうもここのところがしっくりこないんですよ。それは、石神が愛情を寄せる靖子という女性にそれほど(いや、ほとんど)魅力を感じないからなんですよね。「弁当屋で働くおばさん」という記号が邪魔をして、何度「凄い美人」だと書かれても、頭の中ですんなりとイメージできない私が悪いのかもしれないけど、少なくとも「ああ、この女性なら、石神がすべてを犠牲にしても守り抜こうと思うだろうな」とは最後まで思えませんでした。

私としては、それよりもむしろ、物理学者の湯川が、生涯で唯一のライバルと認める石神を「こんなこと」で失ってしまうやりきれない気持ちと悲しみの方に心を動かされたように思えます。この二人の特殊な友情の形には、ほんと胸を打たれました。

あと、本書が「新本格か、否か?」と論議される所以となるトリッキーな部分については、噂に違わず鮮やかの一言。でも、私は早い時点で大まかな部分に気がついたので、衝撃度という点ではちょっと弱く感じてしまったかも。この辺が、私が本書を手放しで大絶賛できない理由かもしれません。

本書は、現時点(2006.1.9)で直木賞の候補作となっています。東野さんが六度目の挑戦で無事に栄冠を掴むことができるかどうか、注目したいと思います(私は、今回も無理では?と思ってますが…)。( 読了:2005.12.13、評価:★★★★ )