しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

飛鳥部勝則「誰のための綾織」(原書房)★★★

誰のための綾織 (ミステリー・リーグ)

誰のための綾織 (ミステリー・リーグ)

はみだしっ子」からの盗作騒ぎで一躍悪名をとどろかせ、回収絶版の憂き目にあってあっという間に市場から消えてしまった悲運の作品。いじめにあって自殺した少女の親が、いじめていた女子高生らを報復すべく孤島に拉致するが、やがて彼女らの前で予期せぬ「密室殺人」が起こる。物語は、最後に生き残った少女が事件の顛末を描いた「小説」を作家である飛鳥部のもとに持ち込むという入れ子構造となっており、このメタミステリな構成がラストで重要な意味を持ってくる。
作中作の体裁を取った凝った構成、自殺した少女と蛭女の伝説が醸し出すおどろおどろしさ、そして思春期の少女の心の揺らぎと残忍性など、特筆すべき点はいくつか見受けられるものの、終盤近くでいくつか繰り出される騙しのテクニックは、すべて過去の有名な新本格作品で使われたネタの焼き直しであり、最近の読者ならいざ知らず、昔から読み込んでいるファンにとって目新しさはほとんどない。むしろ私としては、物語中盤で提示される(実は真相ではなかった)バカバカしいトリックの方が大好きなのだが…。うーん、こちらで最後まで押し通せば「バカミス」の名作になれたのに。
結論としては、傑作とまではいかないが、新本格ミステリとしては楽しく読めたので十分及第点と言える作品だ。点在する盗作箇所は「はみだしっ子」ファンならばすぐにわかる有名なエピソードばかりであるが(私もすぐにわかった。作者もたぶん熱心なファンなのだろう)、そのどれもがこの物語の本筋ともトリックとも関係ないものであり、盗作部分をばっさりと削っても作品自体に何の影響もないがゆえに、こうしたバカな行為で作品そのものが社会的に抹殺されてしまったのが残念でならない。本当に作者はバカなことをしたものだ。(評価:★★★)