しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

歌野晶午「女王様と私」(角川書店)★★★

女王様と私

女王様と私

「このミス」1位『葉桜』の偉才が放つ、今年最大の問題作! 真藤数馬は冴えないオタクだ。無職でもちろん独身。でも「引きこもり」ってやつじゃない。週1でビデオ屋にも行くし、秋葉原にも月1で出かけてる。今日も可愛い妹と楽しいデートの予定だったんだ。あの「女王様」に出逢うまでは。彼女との出逢いが、めくるめく悪夢への第一歩だった……。戦慄的リーダビリティがあなたの脳を刺激する、超絶エンタテインメント!!(amazonの紹介文より)

歌野晶午、期待の新作。うーん、でも私としてはちょっと期待外れかな? 確かに、ロリコンでキモヲタの中年主人公が小学生の女の子に翻弄されまくる展開は、読み物としては面白くエンターテインメントとしてはまあ合格点(数馬と絵夢の会話に引いてる人が多いみたいだけど、人形ヲタクの内面リアル会話ってこんなもんでしょ)。あちこちで物議を醸しそうなミドルパートの○○ネタも、ちゃあんと最初からそうだって書いてあるわけで、これもフェアだからOK。むしろ、そうした「なんでもあり」な状況に主人公自らガッチリと縛りを設けることによって、西澤保彦のSFミステリと同種の面白さが感じられ、この辺は作者のアイデア勝ちだと思う(うーん、このあたり、作品読んでないと何書いてるかわかんないですよね、すみません)。
そして、ミドルパートにおける主人公の活躍が、ダサダサでありつつもロリの一念に貫かれた正義感溢れる行動であり、かつ○○ゆえの奇想天外さに満ち溢れたものであるからこそ、最後のパートの展開は一転して重く、読んでいてなんかこう空恐ろしさを感じてしまう。こうした構成の冴えは歌野晶午のうまさであり、そういう意味から言えば本書は一級のエンターテインメントと言えなくもないんだけど…。*1
…でも、でも、でも!…なんですよ。私としてはやっぱり歌野晶午に「葉桜」や「ジェシカ」的な驚天動地のオチを期待してしまうんですよね。今回もなくはないけど小粒だし、何よりそうしたラストに到る伏線が張り巡らせてあるわけではないので(あまりに唐突なので)驚きはあるけどカタルシスが感じられないんですよ(「葉桜」や「ジェシカ」は賛否両論あると思いますが、一応、あちこちに伏線は散りばめられていて、その辺が叙述ミステリファンとしてはたまらなかったわけで)。まあ、今回の作品はそうしたとこを狙った作品じゃないし、いつもいつも同じ路線を勝手に期待する方が作者の可能性を狭めるという意味で読者のエゴなのかもしれないんですが…。
そんなわけで私としては、読んでいて面白かったけど、ちょっと不満が残る作品でした。そうですね、この作品は「葉桜〜」や「ジェシカ〜」ファンよりもむしろ、「世界の終わり〜」ファン向けかも。(評価:★★★)

*1:見落としがちだけど、結末まで読んだあと、表紙と裏表紙をめくったところに細かな字で書いてある数馬と絵夢の会話を最後まで読むと、他愛ないヲタク会話に微かな狂気を感じてゾクッとしてしまう…。この部分、文庫化する時、どうするんでしょうか?