しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

麻耶雄嵩「神様ゲーム」(講談社)★★★★☆

神様ゲーム (ミステリーランド)

神様ゲーム (ミステリーランド)

小学4年生の芳雄の住む神降市で、連続して残酷で意味ありげな猫殺害事件が発生。芳雄は同級生と結成した探偵団で犯人捜しをはじめることにした。そんな時、転校してきたばかりのクラスメイト鈴木君に、「ぼくは神様なんだ。猫殺しの犯人も知っているよ。」と明かされる。大嘘つき? それとも何かのゲーム? 数日後、芳雄たちは探偵団の本部として使っていた古い屋敷で死体を発見する。猫殺し犯がついに殺人を? 芳雄は「神様」に真実を教えてほしいと頼むのだが……。 (裏表紙紹介文より)

これは間違いなく傑作であり、年末のベスト10で物議を醸すこと間違いなしの問題作。
講談社ミステリーランドという子ども向け叢書の一冊だが、間違っても自分の子どもには読ませたくない邪悪な作品だ。猫殺し事件が多発する神降市で、主人公の芳雄が自ら「神様」だと名乗る鈴木君*1の教えによって探偵団仲間のみんなと犯人探しをする前半部分は、昔懐かしいジュブナイルの手触りで、小学生の頃の読書を思い起こさせるわくわくした展開なのだが、やがてこれが中盤で起こる殺人事件以降、様相は一気に変化してしまう。
いや、違うな。殺人事件が起こり、探偵団が謎解きをしていくくだりは本格的な謎解きものとして面白く、この時点ではまだ普通のミステリだ。本当に様相が一変するのは、芳雄が万能の神である鈴木君に「あるお願い」をし、それが実行されたその時からである。読んでいて、思わず茫然自失してしまうほど衝撃的な展開なのだが、これだけで終わる麻耶雄嵩のわけがない。ここから物語は事件の真相に迫っていくのだが、これがもう邪悪この上なし。凄いのは、邪悪な、ある意味動機に重きを置いた展開でありながら、トリックなど本格ミステリを構成する要素に破綻はなく、見事な着地を果たしていること。
だが、これはラスト一歩手前での話。ここで終わっていれば「邪悪ジュブナイル本格ミステリ」の名作として語り継がれただろうに、物語はさらにあと一歩踏み進んでしまう。このラストには賛否両論あるだろうが、私ははっきり言って反対派だ。せっかく美しく完結しうる物語なのに、邪悪度をアップさせんがためのラストのせいで、ミステリとしての完成度が損なわれてしまってるのが残念でならない。
とはいえ、こんな問題作をしれっと書いてしまう麻耶雄嵩はやはり凄い。一読に値する傑作。ネタバレになるのでこれ以上詳しく書けないが、気になる人は読むべし。(評価:★★★★☆)

*1:一部で「鈴木君は本当に神なのか?」といった議論があるみたいだが、これは意味がないと思う。彼が神であるという前提に立たなければ、この物語は成立しない。それよりもむしろ、「神は間違えることがあるのか?」という議論の方が重要。とはいえ、これも答はないわけで、この物語の謎は謎のままであることに変わりなし。ちなみに、この鈴木君(神様)のキャラクターは、ある意味「神」というものの本質に迫っていて秀逸。「神は万能だが、人間のことなんか毛先ほども気に止めておらず、死のうが滅びようが知ったこっちゃない」という、間違っても博愛主義者ではない点とか。