しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

新城カズマ「サマー/タイム/トラベラー1・2」(ハヤカワ文庫JA)★★★☆

サマー/タイム/トラベラー (1) (ハヤカワ文庫JA)

サマー/タイム/トラベラー (1) (ハヤカワ文庫JA)

サマー/タイム/トラベラー (2) (ハヤカワ文庫JA)

サマー/タイム/トラベラー (2) (ハヤカワ文庫JA)

あまり「SFしていない」と評価低めの意見が多いが、私はけっこう気に入った。わずか3秒先の未来にしか跳べない悠有は、ぼくらを置いてどこに行ってしまうのか。「夏への扉」に集う天才高校生たちによるひと夏の「プロジェクト」。一見クールに見える彼らの思考や行動は、その実、自己が向かう先が見定められない焦燥感に苛まれており、読んでいて痛々しい。だからこそ、未来へ跳ぶ悠有に対する想いは募り、やがて取り残される自分という現実に向き合わざるを得なくなる…。放火事件や誘拐事件が引き起こす狂騒は、エンターテインメントとしてヤマ場を作るためには必要なのかもしれないが、私としてはいっそのことなかってもいいのでは(余計なのでは)とも思った。この作品は、最初から最後まで大きな事件もなく何も起こらず、ただひたすら淡々と語られる方がふさわしいような気がする。(評価:★★★☆)

※ちなみに、SFマガジン2005.7月号に新城カズマが書いた「アンジー・クレーマーにさよならを」(私はけっこう好き)が、実は本書に登場する饗子が書いたものであるというメタな設定には激しく納得した。確かにこれ、彼女が書きそうな小説だよなぁ…。