しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

「扉は閉ざされたまま」石持浅海(ノン・ノベル)★★★★☆

大森望さんが「寝る前に読みはじめたら勢いで最後まで読んでしまった」と言い、杉江松恋さんに「読んでみたらすこぶる出来が良かったので、書きかけの書評原稿の中身を別の本からすげ替えた」とまで言わせ、光原百合さんにいたっては「現時点で、私の中の『本格ミステリオールタイムベスト』に変動をきたすほどに好きな作品」とまで絶賛させる(おー!)、今、ミステリ界でもっとも話題の本、石持浅海の「扉は閉ざされたまま」。
ここまで言われたら、もう矢も盾もたまらなくなって、なんかダレ気味の「オルタード・カーボン」がちょうど上巻読み終えたとこだったから、すかさず購入し一気に読了。いや〜、噂に違わぬ面白さでした。
「最近、読む本、読む本、ちょっと褒めすぎちゃう?」とか「お前は茶木則雄か(笑)」とか、言われたり、言われなかったりしてますが(どっちやねん!)、仕方ないじゃん、ほんとに面白い本にばっかり当たるんだもん。まあ、これも日頃の精進の賜物で選球眼ならぬ選本眼が鍛えられてきたということで。

扉は閉ざされたまま (ノン・ノベル)

扉は閉ざされたまま (ノン・ノベル)

久しぶりに開かれる大学の同窓会。成城の高級ペンションに七人の旧友が集まった。(あそこなら完璧な密室をつくることができる−−)当日、伏見亮輔は密室で事故を装って後輩の新山を殺害、外部からは入室できないよう現場を閉ざした。何かの事故か? 部屋の外で安否を気遣う友人たち。自殺説さえ浮上し、犯行は計画通り成功したかにみえた。しかし、参加者のひとり碓氷優佳だけは疑問を抱く。綿密な偽装工作の齟齬をひとつひとつ解いていく優佳。開かない扉を前に、ふたりの息詰まる頭脳戦が始まった……。(裏表紙、紹介文より)

うーん、とにかく、石持浅海は特別な状況を作り上げるのがうまい。1作目の「アイルランドの薔薇」は物理的には密室ではない「政治的な意味での密室」を作り上げて読者を「あっ!」と言わせたし、続く「月の扉」では、空の上を飛ぶ飛行機の中という特殊な密室にチャレンジしたわけだけど、今回もむちゃくちゃ非凡な設定。
まず、密室殺人を扱ったミステリでありながら、決して密室の中に入ることなく(扉をぶち破ったりせず)、あくまで密室状態を保持したまま、密室の外で推理していく…という設定がすごい。こんな密室ミステリって、世界でも前代未聞では? 読み始める前は、「そんなこと可能なのか? 一体、どうやって物語を進めていくんだ?」って超疑問でしたが、これがまた、探偵役の女性と犯人との知的ゲームさながらの推理と会話の妙でぐいぐい読ませてくれるんですよねー。本書は最初から犯人がわかっている倒叙ミステリですが、探偵役の女性がコロンボや古畑なんのその!ってくらいの天才で、密室の外にいるという無茶苦茶手がかりが少ない状況で、ひとつ、またひとつと犯人の意図をつぶし、矛盾点を連ね、じわじわと犯人を追い詰めていくさまが、読んでてとにかく面白い!!
「何で扉をすぐにぶち壊さないのか?」と疑問に思うでしょうが、これがまた「物理的な制約」ではなく「心情的な制約」によってできないという、まさに石持浅海ならではの設定なんですよ。また、「何で犯人はわざわざ密室にしたんだ? 単に偽装殺人して(事故に見せかけて)すぐに発見させたらいいじゃないか?」とも思われるでしょうが(私もずっとそう思って読んでいました)、これもまた、そうせざるをえない理由がちゃーんとあるんですよねー、密室状態を維持し続けないといけない理由が。
動機についてはけっこう賛否両論ありますが、私は、上記の設定による密室殺人ミステリを成立させるためには、この動機はよく考えられたものだと思います。「そんな理由でフツー殺すか?」と言われたら「うーん…」と唸ってしまうかもしれませんが、とにかく、久々の「一読、巻擱く能わざる」って感じのミステリでした。本格ミステリファンには絶対のおすすめ。いや、ほんと。(評価:★★★★☆)