しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

「タフの方舟」ジョージ・R・R・マーティン(ハヤカワ文庫SF)★★★★☆

タフの方舟1 禍つ星 ハヤカワ文庫SF

タフの方舟1 禍つ星 ハヤカワ文庫SF

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SFマガジン2004.12月号〜2005.1月号に掲載されたシリーズ第1話「禍つ星」を読んでからというもの、その圧倒的な面白さに文庫化を今か今かと心待ちしてたんですが(そんな人は、SFM読者にはいっぱいいるはず!)、このたび2分冊としてハヤカワ文庫SFからようやく出版されることに。いよっ、早川えらいよ! これで品切れ・絶版を減らしてくれたらもっとえらいのに(笑)

連作短編集の上巻にあたる本書は、プロローグ&第1話〜第3話を収録。主人公の宇宙商人兼環境エンジニアであるハヴィランド・タフは、背丈は2メートル半、手も腹もでかく、長い顔には表情はなく、禿頭で肌の色は真っ白、態度・物腰はしゃくに障ってイライラするほど慇懃無礼…とまあ、およそ従来のシリーズ物SFの主人公の造形とはかけ離れた人物なのですが、これがなかなかどうして読んでるうちに個性的で魅力的に思えてくるから不思議、不思議。

第1話「禍つ星」は、タフが千年前に失われた環境エンジニアリング兵団(EEC)の生物戦争用胚種船<方舟>号を手に入れるまでのストーリー。これは文句なしの傑作。「禍つ星」へと向かうべく個性溢れる面々が集まる前半の冒頭からいきなりキャラ立ちまくりのストーリーでぐいぐい引き込まれ、潜入した船で各人が独自の行動を取る後半では緊迫感の高まりとドキドキハラハラの連続で面白さはさらに炸裂。生体兵器が「解放プロセス開始」「解放」と静かに淡々と解き放たれていくとこなんか、もう最高。いやー、これはマジで面白い。

つづく第2話「パンと魚」は、宇宙港を牛耳る、泣く子も黙る女性ポートマスター、トリー・ミューンとタフの丁々発止の渡り合いを楽しめる一編。この、いかにも姐御肌といったトリー・ミューンがまた魅力的なんですよねー。彼女は下巻収録予定の第4話と第7話にも登場するというから楽しみ。

第3話「守護者」は、前の2篇に比べるとレベルは落ちるけど、それは「禍つ星」と「パンと魚」が面白すぎるからで、この「守護者」も十分及第点。SFM考課表式に採点すると「禍つ星」「パンと魚」がそれぞれ「+2」、「守護者」が「+0」といったところですね。

とにかく久々に、堅苦しくなくて、わくわくと心から楽しみながら読むことのできたSFでした。後半の第2巻がもうすぐ出るので、ソウヤーの「ネアンデルタール・クロニクル」共々、ここしばらくはハヤカワ文庫SFで楽しめそう。(評価:★★★★☆)