しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

「トニー滝谷」

休んでたあいだに観にいった映画。これはおすすめ。

トニー滝谷

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この映画を観に行こうと思ったのは、宮沢りえがこの映画で何かの賞を取ってたから。恥ずかしながら、この「トニー滝谷」が村上春樹の同名小説の映画化だとは映画を観に行く直前まで知りませんでした。いやそれどころか、「トニー滝谷」という昔のジャズマンを描いた伝記っぽい映画だと思ってたという…。ああ、恥ずかし…。実際は、孤独で物静かなイラストレーターのトニー滝谷が、美しい妻を得て孤独から救われ、やがてその妻を亡くし再び、いや以前よりもより一層深い孤独に落ちていくというお話。

この映画が非凡なのは(この原作が〜と言うべきかも)、妻(宮沢りえ)が亡くなったあと、ある女性(宮沢りえの二役)がバイトとしてトニー滝谷のもとにやってくるんですが、ふつうの物語だと、宮沢りえの二役だし、ここから二人のあいだに何らかの関係が築き上げられ、ストーリーが紡ぎ出されていくのに、このお話は全然そんな展開にならず、観る者を突き放すかのようにエンディングを迎える。これは本当にすごい。

過剰なまでのナレーション(さらには、登場人物までもがト書きを喋る!)で構成されたこの映画は、はっきりいって今まで観たどんな映画とも違う、映画の「文法」というか「お約束」を無視した映画だけど、ナレーションで説明しつくしてなお、それ以上にイッセー尾形の哀切に満ちた演技が、トニー滝谷の静かで深く決して癒されない孤独を観る者に訴えかけてくる。宮沢りえも素晴らしく、トニー滝谷の亡き妻が残した膨大な衣装を前に泣き崩れるバイト女性(宮沢りえ)の心の動きが美しい。

救いのない映画だけど、観終わったあとの感想はなぜか悪くない。ただただ、静かで美しく悲しい映画。一見の価値あり。(採点:80点)