しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

荻原浩「誘拐ラプソディー」(双葉文庫)

誘拐ラプソディー (双葉文庫)

誘拐ラプソディー (双葉文庫)

伊達秀吉は、金ない家ない女いない、あるのは借金と前科だけのダメ人間。金持ちのガキ・伝助との出会いを「人生一発逆転のチャンス?」とばかりに張り切ったものの、誘拐に成功はなし。警察はおろか、ヤクザやチャイニーズマフィアにまで追われる羽目に。しかも伝助との間に友情まで芽生えてしまう…。はたして、史上最低の誘拐犯・秀吉に明日はあるのか? たっぷり笑えてしみじみ泣ける、最高にキュートな誘拐物語。(裏表紙紹介文より)

id:seiitiさんに紹介してもらって速攻で買った本書だが、インフルエンザでしんどい時にこの本を選んだのは大正解。肩肘張らずに楽しんで読むことができた。
冒頭、死のう死のうとしながらいつまでたっても言い訳を見つけて死にきれない、そんななさけない秀吉にまずは笑わされ、そのダメっぷりにさりげなく感情移入させられてしまう。たなぼたで転がり込んできた金持ちの子どもを起死回生とばかりに誘拐したら、それがなんとヤクザの組長の息子だったばかりに、八岐組全員を敵に回して追われまくるツキのなさ。
ヤクザの面々はステレオタイプとはいえ憎めない連中で、このヤクザ達と秀吉の追いかけ合いが本書の面白さなのだが、やはりそれ以上に本書を魅力的なものにしてるのは、秀吉のことをどんなことがあっても信じて疑わない伝助少年と秀吉の心の交流だ。数日間苦楽をともにする中で芽生えた友情(それとも疑似父子愛?)によって、何もかもに捨て鉢になっていた秀吉の心に小さな明かりが灯され、ふたたび前向きに生きていこうという決意へとつながっていく。ラスト近くの無垢な訴えにはホロリとさせられるし、うーん、伝助、じつにいいキャラだ。
正直、最後、どう落とし前をつけるのか読んでて心配だったが、作者は「これしかない」と思わせるラストを用意してくれた。紹介文にある「たっぷり笑えてしみじみ泣ける」という言葉に偽りなし。途中のチャイニーズマフィアの話は正直ちょっと浮いてるかなとも思うが、これだけ楽しませてもらったら文句なし。さて、次に読む荻原浩はどれにしようかな…。