しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

恩田陸「夜のピクニック」(新潮社)

去年からのつんどく本、ようやく読了!

夜のピクニック

夜のピクニック

あの一夜に起きた出来事は、紛れもない奇蹟だった、とあたしは思う。
夜を徹して八十キロを歩き通す、高校生活最後の一大イベント「歩行祭」。
三年間わだかまっていた想いを清算すべく、あたしは一つの賭けを胸に秘め、当日を迎えた。去来する思い出、予期せぬ闖入者、積み重なる疲労
気ばかり焦り、何もできないままゴールは迫る――。ノスタルジーの魔術師が贈る、永遠普遍の青春小説。(出版社/著者からの内容紹介より)

しばらく恩田陸からは遠ざかっていたが、本書は久々に各方面で大絶賛のため手に取ってみた。80キロの行程を朝の8時から翌朝まで夜を徹してひたすら歩く「歩行祭」。物語の骨子は本当にただこれだけなのだが、読み始めたら最後、ただそれだけの物語から目を離すことができなくなる。
周囲に異母兄弟であることを隠し、お互い過剰に意識し合うがゆえに口さえ利くことのなかった融と貴子が「歩行祭」という一種の「非日常な時間」を共有する中で、自分の本当の心と向き合い、切望して止まなかった相手との関わりを掴んでいく。ある意味、直球ど真ん中の青春小説なのだが、登場人物たちがみな、身体と心を極限まで酷使してひたすら歩き続けるという特殊な設定だからこそ、気持ちの変化が読んでいてすんなりと受け入れられるのだと思う。融と貴子の親友たちも丁寧に描かれ、彼らの2人を愛する気持ちや行動は「ああ、こんなにまで自分のことを思ってくれる親友がいればいいなぁ」と思わずうらやましくなるくらいだ。
最近の恩田陸には珍しく最後の最後まで失速することなく最高のラストを迎える本書は、「本の雑誌が選ぶ2004年度ベスト10」の第1位も納得の1冊。私の読んだ恩田陸作品の中でもベスト3に入るのではないだろうか?(ちなみにあと2冊は「光の帝国」と「象と耳鳴り」)今さら私が言うまでもないが、絶対のおすすめ。