しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

鷺沢 萠「ウェルカム・ホーム!」

ウェルカム・ホーム!

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「普通の家族って、なに?」それぞれの家族にたくさんの愛情のカタチがある。
シングル・マザーや父子家庭が当たり前の時代、親子の繋がり方も変っている。父親と息子、そして父の友人。男3人で暮らす「家族」生活。また、離婚した夫の連れ子と数年ぶりに再会する“育ての母”の気持ち。「普通の家族」とは少しカタチが違うけど、とっても温かいふたつの家族の情景を描いたハートウォーミング・ストーリー二篇。(著者/出版社からの内容紹介より)

えっと、確か去年あたり、「本の雑誌」のベスト10にランクインされてて、それで興味を持って買った本だったと思う。買ったのは、鷺沢さんが自殺する前で、まさかその時はこんなことになるなんて思ってもいなくて、今になってようやく読み終えることができました。


うーん、電車の中で読んだのは失敗だった…。この本、「渡辺毅のウェルカム・ホーム」と「児島律子のウェルカム・ホーム」という2つの中篇が収められた作品集ですが、2編目の「児島律子のウェルカム・ホーム」のラストで、もう涙が止まらない。ラストあたりで4回も涙ポロポロ。波状攻撃で泣かせのツボを襲ってくるんですよね。大きなマスクをしてたから目立たなかったけど、これはちょっと恥ずかしかった…。


1編目、「渡辺毅のウェルカム・ホーム」は、小学6年生の憲弘と、なぜか家に二人いるお父さん、英弘と毅の物語。外で働く本当のお父さんと、家で家事全般をこなす「タケパパ」の二人のお父さんという設定だから、私はすぐに「ああ、この二人はゲイの恋人どおしなんだ」と思い込んで読んでたら、実は全然そんな話じゃない。じゃあ、どうしてこの二人は仕事と家事を役割分担して、同居して、子どもを育てているのかというと、それは読んでのお楽しみ。男の沽券にこだわる毅と、フツーじゃなくったっていいじゃないか、そんなことよりも、もっともっと大切なことがあるんだよ、という物語。ラストの憲弘の作文には泣けます。


で、2編目は「児島律子のウェルカム・ホーム」。仕事一筋に生きる「デキる女」児島律子。二度の結婚に破れ、愛する娘とも離れ離れになり、自分の人生に「形ある何か」を残せていないことに苛立ちを覚える四十台の彼女の元に突然、離婚によって引き離され何年も会っていない娘と結婚したいという青年が現れ…というストーリー。
物語は、思わず怒りにフルフルと震えそうになる、彼女の過去の旦那とその舅、姑との心の持って行き場がない生活の回想が大部分を占めますが、ここで語られる律子さんの過去が救いがなく、やりきれないからこそ、娘と結婚したいという青年との出会いがもたらす出来事に、読んでてもう泣かされ続けてしまうんですよね(繰り返しますが、ほんと、ラスト20ページほどで4回も泣くとは思いませんでした)。
今年の「泣かされ本」第1号にして、今年読んだ本ベスト10当確の、心温まる作品です。あとでよくよく冷静になって考えてみると、かなり「ベタ」なストーリーなんだけど、単に「泣かせ」だけに走る最近の本とは違い、必死に歯を食いしばって家庭と仕事を両立させながら働く女性の心情を丁寧に描いてあるからこそ、ラストが生きてくるのだと思います。


…とここまで書いて、こんな素晴らしい作品を書く鷺沢さんが、もうこの世にいないんだと改めて考えてしまいました。そう思うと、何だか哀しくなってきますね…。