しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

「アナンシの血脈(上)(下)」ニール・ゲイマン(角川書店)★★★★

アナンシの血脈〈上〉

アナンシの血脈〈上〉

アナンシの血脈〈下〉

アナンシの血脈〈下〉

何をやっても冴えないチャーリーは、父親の葬儀の日に衝撃の事実を告げられる。「あんたの父さんは神だったからね―」そしてある日、神の血を色濃く受け継ぐ、スパイダーという名のきょうだいが現れて、平凡だったチャーリーの人生は音を立てて崩れはじめた。アフリカ神話の神の血脈に連なる二人の青年。その正反対の生き方がぶつかって巻き起こるとんでもない事件とは…?! ありえない現実と真に迫る幻想が交錯する、ジェットコースター・ストーリー。(Amazonの紹介文より)

ニール・ゲイマンの長編を読むのはこれが初めて。とにかくリーダビリティがものすごく高くて、翻訳ものだというのにハードカバー上下2巻があっというまにサクサク読めてしまう読みやすさ。アフリカ神話における「物語の神」アナンシの伝承という、いくらでもダークなファンタジーに仕立て上げられる素材なだけに、読む前はもう少し壮大で重厚なダークファンタジーかと思ってたけど、実際はあれよあれよと物語が転がっていく今はやりの軽めなハリウッド映画って感じでしたね。主人公を次々と災厄(というか悲喜劇?)が襲い「一体どうなるんだ?」とわくわくしながら読んでると、やがてすべての伏線がきれいに収束して、予想通りの(いや、予想以上の)大団円。いやぁ、これは面白い。心にいつまでも残るってストーリーじゃないけど、読んでるあいだは間違いなく読書の楽しみを味わえること請け合い。

キャラクターも、ほんと端役に至るまで一人一人が実に生き生きと描かれていて、私はなかでもスパイダーがお気に入り。主人公チャーリーの天敵で、本来なら嫌われ役のはずなのに、なぜか私は最初から彼を憎めず、気が付いたら主人公のチャーリーよりも彼の恋の成就を応援してたりとか(笑)

結局のところ、アナンシの息子という設定がファンタジーとして生かしきれていたかというとちょっと疑問だけど(鳥との対決とかは面白かったけどね)、これだけ面白い物語に仕立て上げてくれたから文句なし。巻末の解説によると、ヒューゴー賞とブラムストーカー賞を受賞した“American Gods”が角川書店から出版予定らしいので、早く出してほしいなぁ。(評価:★★★★)