しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

「削除ボーイズ0326」方波見大志(ポプラ社)★★★☆

削除ボーイズ0326

削除ボーイズ0326

時間SFは数あれど、特定の時間だけ削除できるってアイデアは今までなかったのでは?(あ、ひょっとしたら「ドラえもん」のエピソードとかであるかも(笑))

デジカメそっくりな削除装置で削除できる時間はわずか3分26秒。DELETEボタンを押すことによって、指定した時刻から3分26秒間に起こった出来事は「なかった」ことになってしまうので、変えてしまいたい過去を自由に消し去りやり直すことができる。でも、時間を改変することのツケは当然あるわけで…というお話。

これだけのアイデアなんだから、SFとしていくらでも話を膨らませて面白くできるはずなんだけど、本書は基本的にジュブナイル小説の体裁を取っているから、のび太ドラえもんの道具を使って世界征服や一攫千金を目論まないのと同様、小学生である主人公たちも自分の身の回りに起こった事件の解決にのみ腐心する。地元で起こった小学生連れ去り事件が原因で歩けなくなったクラスのリーダー・ハルと、事件ののちに突如引きこもりと化した兄の圭。ほんの少し歯車が狂ったために誰もが不幸となった現実をなんとか元に戻そうと奔走する主人公たちの活躍は、いかにも正当派なジュブナイル小説としてよく描けてるし、事件の謎解きに至るストーリー展開も面白い。

…というわけで、小説として最後まで楽しんで読めたから何の文句もないはずなんだけど、これだけおいしいSFネタをこんなにあっさりと使ってしまっておしまい…ってやっぱりちょっともったいなさすぎる気が。だってこんなアイデア、最初に書いたもん勝ちじゃないですか。うーん、二番煎じでもいいから、誰かこの「時間を削除する」ってアイデア使って、パラドックスネタとか絡めて何かすごいバリバリのSF書いてくれないかなぁ。(評価:★★★☆)