しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

朱川湊人「都市伝説セピア」角川書店(★★★☆)

都市伝説セピア

都市伝説セピア

都市伝説に憑かれ、自らその主人公になろうとする男の狂気を描く、オール読物推理小説新人賞受賞作「フクロウ男」ほか、病む心の妖しさ哀しさを描くホラー短篇全5篇を収録。(amazonの紹介文より)

以前から一部で絶賛されていたため気になっていた作家であり、今回「花まんま」が直木賞を受賞したのを機にまずはデビュー作から…と思って読んでみた。「懐かしさを感じるホラー」との評をよく聞くが、確かにただ怖がらせるだけの不気味なホラーではなく、やさしい気持ちがいつまでも心に残る作品が多い。
私としては、墓石ベロベロの「死者恋」や、○o○の氷漬けベロベロ(あ、これはベロベロしてなかったか(笑))の「アイスマン」よりも、1日だけ過去に戻れる少年が、事故で死ぬ友人を必死になって何度も何度も助けようとする「昨日公園」が★5つ級のベスト。少年の友人を思うけなげな姿はせつなく、幼い息子を持つ身としてラストは涙なしでは読めなかった。次点は、電車から見えるマンションのベランダにいつも死んだ母が立っていて…という本短編集の末尾を飾る「月の石」。その不気味きわまりないオープニングから霊を題材としたよくあるホラーかと思いきや、物語は当初の予想とは全然違った方向に進んでいく。救いのあるラストは本来私の好みではないのだが、この作品のうまさは認めざるをえない。
どこかで宮部みゆきが絶賛していたというのを読んだ記憶があるが、それも納得の作品集。作品の完成度にムラがあるのでトータル評価はそれほど高く付けられないが、「花まんま」でさらにレベルアップしてるらしいので次に読むのが楽しみだ。(評価:★★★☆)