しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

「ソーネチカ」リュドミラ・ウリツカヤ(新潮社)★★★★

ソーネチカ (新潮クレスト・ブックス)

ソーネチカ (新潮クレスト・ブックス)

本の虫で要望のぱっとしないソーネチカは、1930年代にフランスから帰国した反体制的な芸術家ロベルトに見初められ、結婚する。当局の監視の下で流刑地を移動しながら、貧しくも幸せな生活を送る夫婦。一人娘が大きくなり、ヤーシャという美少女と友達になって家に連れてくる。やがて最愛の夫の秘密を知ったソーネチカは……。神の恩寵に包まれた女性の、静謐な一生。幸福な感動をのこす愛の物語。(見開きの紹介文より)

非常に不思議な物語。ただひたすらロシア文学の世界に浸って青春期を過ごした本の虫のソーネチカと、フランスから帰国した反体制派の画家ロベルトの結婚生活が、不安定な政情の中で静かに育まれていくさまが語られていくのかと思いきや、物語の中心は一転して早熟な娘のターニャに移り、さらに物語はターニャが想いを寄せるヤーシャを中心に(あたかも主人公のごとく)進んでいく。このヤーシャの行動が、幸せだった(というか、ソーネチカが幸せだと信じていた)ソーネチカ一家を破滅に追い込んでいくのだけど、本書がとてつもなく非凡で一級の文学作品たらしめているのは、後半で語られるソーネチカとヤーシャの、常識という枠組みでは決して計れない不思議な信じがたい関係を見事に描いている点だ。訳者はあとがきで「ソーネチカ」はどのような小説か?という問いかけに対し、「ひと言であらわすとしたら、「平凡な女」の一生を描いた「非凡な物語」といえるのではないだろうか」と書いているが、まさにそのとおりだと思う。いや、こんな神にも等しい無償の愛を与えることができるソーネチカは「平凡な女」なんかじゃなく、我々凡人にはその存在さえ信じがたいほどの「非凡な女性」と言えるかもしれない。いつまでも心に残る静かで不思議な物語だ。(評価:★★★★)