しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

「20世紀の幽霊たち」ジョー・ヒル

20世紀の幽霊たち (小学館文庫)

20世紀の幽霊たち (小学館文庫)

★★★★☆

噂に違わぬ傑作。これはいいぞ。昔ながらの怪奇小説でもなく、またキングに代表されるようなモダンホラーでもない。しいて言えば「限りなく普通小説の肌触りを持った異色短編」ってとこか。友情や愛情を描いた秀作が多く含まれてるし、スーパーナチュラルな要素がまったくない作品もあるし。

個々の作品については語られ尽くされてるので詳しくは書かないけど、私が特に気に入ってるのは、ホラー小説のアンソロジストが遭遇する恐怖を描いた正統派ホラー「年間ホラー傑作選」、風船人間という奇病の友人との心温まる友情物語「ポップ・アート」、ゾンビ映画のエキストラとして再会した元カップルが前向きに人生を歩み始める再生の物語「ボビー・コンロイ、死者の国より帰る」、サヴァン症候群の弟が創造した巨大オブジェがそこはかとなく恐ろしい「自発的入院」の4作。他の作品も秀作ぞろいだけど、私としてはこの4作が飛び抜けてると思う。

なかでも、すごいのは「ポップ・アート」。普通だったらただのトンデモ小説になりかねないところを(だって、奇病で身体がどこにでもあるビニールでペラペラの風船人形になっちゃうという…)、哀切感漂う友情物語に昇華させたこの作品はオールタイムベスト級の素晴らしさ。もう、この作品だけのためにこの本を買っても損はなし!
「ボビー・コンロイ〜」も、「ゾンビ」の撮影現場で元カップルが死人のメイクをして再会するという異常な設定さえ除けばごく普通の小説なんだけど、人生に行き詰まりを感じた二人がゾンビの撮影という異常なシチュエーションを通して再び希望を見出すに到るそのストーリーテリングたるや!(彼女の心の変化が唐突すぎるのがやや難だけど)

作者はスティーブン・キングの実の息子らしいが、そんな肩書きがかえって邪魔とも言えるこの作者、今後も要チェックだ。まずは既刊の「ハートシェイプト・ボックス」を読まねば。


最後に考課表も書いておこうっと(-3点から+3点まで)。
普通、考課表に小数点以下はないんだけど、それだと細かいニュアンスが伝わらないので今回だけ特例ということで。

「謝辞」(なんで謝辞の考課表?と思った人。読めばわかります) +0
「年間ホラー傑作選」 +2.5
「二十世紀の幽霊」 +2
「ポップ・アート」 +3
「蝗の歌をきくがよい」 -1
アブラハムの息子たち」 +1.5
「うちよりここのほうが」 +1
「黒電話」 +1
「狭殺」 +1.5
「マント」 +0
「末期の吐息」 +0
「死樹」 +0
寡婦の朝食」 +0
「ボビー・コンロイ、死者の国より帰る」 +2.5
「おとうさんの仮面」 +2
「自発的入院」 +2.5
「救われしもの」 +1