しゃんぶろう通信

姫川みかげ です。ミステリやSFの感想など。

「冷蔵庫のうえの人生」アリス・カイパース

冷蔵庫のうえの人生

冷蔵庫のうえの人生

病に冒され死にゆく母とその娘が、冷蔵庫に貼られたメモを通してお互いの気持ちを確かめ合っていく物語。

忙しくてすれ違いばかりの母娘が書く冷蔵庫のメモだけで展開する構成は、まあ斬新かもしれないけど、ただそれだけ。それ以上でも以下でもない。いや、むしろ終盤へと進むにつれ、特異な設定に逆に縛られてしまい、物語が破綻しているようにも見受けられる。

また、構成は斬新かもしれないが、ストーリーに目新しさはまるでなく中身は薄っぺらで、はっきり言って凡庸で陳腐。母娘が心を通わせあっていく過程が丁寧に描けていないため(冷蔵庫のメモだけではこれが限界か?)、読んでいて胸に迫ってくるものがない。というか、ステレオタイプでありきたりなお涙頂戴的ストーリーを示されて「ほら、感動するでしょ? 泣けるでしょ?」って言われてるみたいで、読後感はかなり冷めたものとなってしまった。

近年、海外文学で深い感動を味わう機会が多かっただけに、これらの作品とのあまりの落差に唖然としたというのが正直な感想。すれ違いを演出するためとはいえ、病の不安に心が押し潰されそうになっている母が「病院にいっしょに行ってほしい」と何度懇願しても、友人との食事や恋人とのデートを優先する娘に不快感を感じてた私としては、娘がいくら母親を思う言葉を連ねても素直に心に伝わってこず(おまえは本当に母親のことを心配してるか?)、とてもじゃないが感動なんて気持ちは沸いてこなかった。

なのに、ネットの感想とか見てると「滂沱の涙でした」とか「人生最高の書です」みたいなニュアンスの感想が多々あって、思わず腰を抜かしそうになってしまった…。みんな、感動のハードルが低すぎ。もっといいものいっぱい読んで感性のレベルを上げようよ…(泣)

というわけで、初めての星ひとつ。帰りの電車の中だけで読めてしまったのでそれほど腹も立たなかったけど、もし何日も時間を取られてた末にこれだったら爆発してたかも(笑)